Tidbits stream 16 腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症は ”間欠性跛行”(しばらく歩くと下肢シビレ感が出現し歩けなくなる)が有名で、その症状だけで腰部脊柱管狭窄症と診断されることが多いようです。しかし下図のように、腰部脊柱管狭窄症、閉塞性動脈硬化症(下肢動脈が細くなっている)、サルコペニア(腰下肢の筋力低下)は、似たような症状を示し、鑑別が非常に困難です。よって、腰部脊柱管狭窄症と診断するために、閉塞性動脈硬化症、サルコペニアでないことを証明する必要があります。
まず膝蓋腱反射テスト(いわゆる脚気のテスト)やアキレス腱反射テストを行います。次に腰のMRI検査を行い、脊柱管狭窄の有無だけでなく、狭窄程度と下肢症状が乖離していないかを検討します。最後に血流検査(ABI/TBI)を行い、閉塞性動脈硬化症の可能性を検討します。膝蓋腱反射テストやアキレス腱反射テストは簡便ですが、MRIやABI/TBIは実施できる病院は限られます。
腰部脊柱管狭窄症と診断されれば、一般的にはリマプロストが投与されます。リマプロストは神経の血流改善薬で、効果が出るまで約6週かかると言われています。この薬は1988年に販売開始され、学会や講演会などで盛んに実験動物を用いた腰神経根の血流改善動画が繰り返され、脊椎専門医の脳裏に焼き付きました。その後あっという間に脊椎専門医から整形外科医全体に、腰部脊柱管狭窄症=リマプロスト処方、効果が出るまで6週間というステレオタイプな認識が拡大しました。
動物実験や臨床研究のリマプロスト効果を否定するつもりはありませんが、その後、あまりにもリマプロストが多くの患者さんに投与されていることに違和感を覚えます。腰痛や脚が冷えるといった理由で同剤が投与される状況を見るに、医師が腰神経血流改善(動物実験)→腰下肢血流改善と考えているようです。よって、腰痛・脚の冷え→血流悪化→リマプロスト、足のしびれ→腰部脊柱管狭窄症→リマプロストなどの拡大解釈につながっています。
これまでに何らかの理由で、腰部狭窄症患者さんのリマプロストを休薬する経験が何例かありましたが、休薬しても患者さんの症状は悪化しませんでした。よって、全てでないにしろ、一般的に信じられているリマプロストの効果発現期間6週間は、自然治癒効果が発揮される期間である可能性もあるでしょう。それ以来、当院では、腰部脊柱管狭窄症状(間欠性跛行や下肢痛)が落ち着いている患者さんのリマプロストは中止し、また新規に腰部脊柱管狭窄症と診断した場合も、リマプロストの処方は行っていません。
腰部脊柱管狭窄症は高齢者に発症しやすいので、そもそも活動性の低い高齢者は間欠性跛行で困る事は少ないようです。また腰部脊柱管狭窄症は腰を反らすような作業(長時間の草刈り機使用、重量物運搬)など、腰を反らす作業を控えれば、症状進行を防ぐことが出来ます。
腰部脊柱管狭窄症の手術適応は、活動性が高く、間欠性跛行のために歩行距離や立位保持時間が短く、両下肢の筋力低下または膀胱直腸障害(排尿、排便の感覚が薄い)がある方が適応です。すなわち、いろいろな工夫をしてもなお、下肢症状が強く日常生活に支障をきたしている場合のみです。しかし高齢者であれば誰しも、大なり小なり加齢現象で同様の症状がありますし、また常に存在する下肢しびれや足裏の違和感は手術で軽減しませんから、術後満足感は低下する傾向があります。 また典型的な腰部脊柱管狭窄症に腰痛は含まれないので、腰痛を改善する目的で手術をしても腰痛が和らぐ可能性は低く、むしろ手術による腰背部筋力低下で腰痛が悪化することも多々あります。術後にリマプロストや痛み止めを漫然と飲み続けている方をよく見かけますが、術後に残存している症状(しびれや違和感)は薬で改善出来ないので中止しましょう。何らかの痛みが続いている場合は、そもそも腰部脊柱管狭窄症以外に痛みを起こす疾患が存在していた可能性を示しています。くれぐれもその症状が腰部脊柱管狭窄症由来であるか、術前に担当医に相談してください。
