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Tidbits stream 7 critical thinking(批判的思考) 

[2025.12.29]

  ”天動説”は2世紀にギリシャのプトレマイオスが提唱したものです。それは、目に見える感覚的な発想と宗教教義が一体化したもので、普通の生活を送る人々は特に疑問を持つ必要がありませんでした。しかし、15世紀半ばの大航海時代、陸地が見える範囲で船を運航する状況から、何も目印のない大海原を羅針盤と星座を利用して航海する状況となって初めて、人々が天動説に違和感を持ち始めたようです。そしてイタリアのガリレオは地動説に有利な証拠を多く見つけ、ケプラーが地動説の星表を完成させ、急速に世の中に普及しました。15世紀から17世紀の300年もの時間をかけ地動説は確固たる地位を築き、20世紀、人類がロケットで宇宙に行くと、地動説は揺るぎないものとなりました。

 医学の世界でも、かつて当然のように正しいと信じられてきたことが、のちの研究で正しくなかったと判明する例が少なくありません。特に、common disease(ありふれた症状)を扱う市中病院やクリニックでは、EBM(根拠に基づく医療:Evidence Based Medicine)やNBM(物語りと対話に基づく医療:Narrative Based Medicine)などではなく、今まで行われてきた治療や処方が漫然と踏襲され、いわゆるベルトコンベアー式で治療が進められます。ベルトコンベアー式医療は、かつて一世を風靡した「クイズ・ドレミファドン!」よろしく、条件反射で診断名が付き、薬が投与され、注射やリハビリが始まります。ですから、どの病院やクリニックに行っても、たとえ違う病名であっても、同じ薬、同じ注射、同じリハビリが提供されます。そして、3カ月もすれば人間が持つ“自然治癒能力”で症状は軽快し、原因が解決されぬまま診療は中止または終了、そして次の病期ステージに進みます。また、戦後復興期の経済成長に、高齢者医療費負担は3割から1割と下がり、いわば掛かり放題、治療し放題となりました。よって、医療側と患者側は ”Win-Win” な状況でしたから、医療の質に疑問を持つひとはいませんでした。そんな状況から一転、今では病院の赤字や閉院、社会保障費抑制のため医療費やOTC医薬品の負担増が話題となり、医療側と患者側ともに ”loser” となりつつあります。

 すなわち、「一億総中流社会」の崩壊が、15世紀の大航海時代の民衆よろしく、 現代人が現医療に違和感を持つきっかけとなりました。そろそろ、医療も”天動説”から”地動説”への転換点と思われます。

 医学はサイエンスですから、人体の仕組みは、化学や物理の法則によって理路整然と説明可能です。よって、身体に起きる病気も、サイエンスの言葉で説明でき、その治療手段もまたサイエンスによって生み出すことが出来るはずです。もちろん、今ある手持ちの材料で理にかなった説明が出来たとしても、それはやはり「暫定的な正解」に過ぎず、修正作業は永遠と繰り替えされるでしょう。私が医師になってから30年余りの間に、「理屈の上では合理的に思われた説明」が覆され、後から考えると、「そりゃあ、そうだろうな。なぜ気づかなかったんだろう」と思うことが多々あります。

 本ブログでは、10年後、20年後を見据えた ”新しい整形外科” を目指し、critical thinking(批判的思考) で、暫定的ですが科学的な解説を心がけていきます。

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